円筒形の配水池では、地震時に水が側壁に及ぼす力を、Housner の理論による「衝撃質量」として考えるのが一般的です。ただ、解析モデルへの入れ方は一つではありません。壁面に動水圧として作用させる方法のほか、衝撃質量を側壁の節点に付加質量として持たせ、震度を掛けて慣性力とする方法もよく使われます。本稿では、同じ配水池・同じ衝撃質量・同じ震度で4つの与え方を比べ、合力がほぼ同じでも側壁の断面力がどれだけ変わるかを確認しました。
掲載内容について
配水池の寸法・配筋・地盤条件・設計水平震度は、技術説明のために設定した仮想事例(仮定値)であり、実案件の情報は含みません。数値は社内の3次元骨組・平板解析プログラム(静的・固有値)による試算結果です。適用する基準・設計震度は、施設管理者の定める基準類に基づき個別に確認します。
検討条件と4つの与え方
| 構造 | RC 円筒形配水池(地上式、頂部開放) |
| 寸法 | 内径 20.0 m、側壁高 9.0 m、水深 8.0 m |
| 部材 | 側壁 t = 0.40 m、底版 t = 0.60 m |
| モデル | 3次元シェル(平板要素 1,344、節点 1,369)、底版に平板地盤ばね |
| 荷重 | 地震時の増分のうち動水圧分のみ(設計水平震度 kh = 0.25、X方向) |
| 与え方 | 内容 |
|---|---|
| ① 動水圧 | Housner の衝撃動水圧の分布(高さ方向は放物線、周方向は cosθ)を壁面に法線方向の圧力として載荷 |
| ② 付加質量 cos²θ | 衝撃質量を、高さ方向は①と同じ形、周方向は cos²θ で側壁の節点に配分し、X方向に kh·m·g を載荷 |
| ③ 付加質量 均等 | ②と同じだが、周方向に均等に配分 |
| ④ Westergaard | ダムの動水圧式 p = 7/8·kh·γw·√(H·y) に cosθ を掛けて壁面法線方向に載荷(参考) |

Housner の理論による衝撃質量は、水の質量 2,513 t の 0.450 倍の 1,131 t、作用高さは水深の 3/8(3.00 m)です。②③は衝撃質量の合計を 1,131 t にそろえているので、水平合力は kh × Wi × g = 2,772 kN に一致します。
側壁の断面力の比較

| 項目 | ① 動水圧(Housner) | ② 付加質量 cos²θ | ③ 付加質量 均等 | ④ Westergaard |
|---|---|---|---|---|
| 水平合力 (kN) | 2,851 | 2,772 | 2,772 | 2,947 |
| 合力の作用高さ (m) | 2.97 | 2.84 | 2.84 | 3.15 |
| 円周方向軸力 Nx 最大 (kN/m) | 162.8 | 122.2 | 85.2 | 160.8 |
| 鉛直方向曲げ |My| 最大 (kN·m/m) | 12.2 | 16.7 | 10.9 | 13.2 |
| 円周方向曲げ |Mx| 最大 (kN·m/m) | 2.6 | 22.2 | 2.2 | 2.7 |
| 面外せん断 |Qy| 最大 (kN/m) | 4.6 | 14.9 | 4.2 | 5.3 |
検算:①の合力の理論値は 2,772 kN、④は 7/12·kh·γw·H²·πR = 2,874 kN。解析の合力はそれぞれ +2.8%、+2.6% で、要素分割に伴う節点への積分誤差です。作用高さは底版上面から。
合力が同じでも、フープ力は 2〜5 割変わる
①〜③の水平合力はほぼ同じ(差 3%)ですが、円周方向の引張力(フープ力)の最大値は①の 163 kN/m に対し、②は 122 kN/m(-25%)、③は 85 kN/m(-48%)でした。動水圧は壁面に垂直に作用するため、全量が側壁を押し広げる(または引き込む)力になります。これに対し、節点に X方向の慣性力として与えると、θ = 90° 付近では力が壁面に沿う向き(接線方向)になり、その分は面内のせん断として底版に流れて、フープ力になりません。
cos²θ 配分では、円周方向の曲げが大きく出る
②では円周方向曲げの最大値が 22.2 kN·m/m と、①(2.6)の約 9 倍になりました。X方向の力を cos²θ で配分すると、壁面に垂直な成分は cos³θ の分布となり、cosθ 以外の成分(周方向に3つの山を持つ変形)を含むためです。図-2右の波形がこれに当たります。これは実際の動水圧には含まれない、モデル化に起因する曲げです。
衝撃質量を「節点の付加質量 × 震度」で入れる方法は、固有値解析とあわせて使いやすい反面、静的な断面力の算定では側壁のフープ力を過小に(③で -48%)、円周方向の曲げを過大に評価することがあります。側壁の配筋を決める断面力には、壁面法線方向の動水圧(①)を用いるのが妥当です。
固有周期への影響
| 状態 | 1次周期 | X方向の主要モード周期 | X方向の有効質量 |
|---|---|---|---|
| 空水時 | 0.309 s | 0.256 s | 648 t |
| ② 付加質量 cos²θ | 0.462 s | 0.401 s | 1,271 t |
| ③ 付加質量 均等 | 0.440 s | 0.379 s | 1,148 t |
付加質量の配分を変えると、X方向の主要モードの周期は 0.401 s(cos²θ)と 0.379 s(均等)で -5% 違いました。均等配分では θ = 90° 付近の質量も X方向に一体で動くため、有効質量が 1,148 t と大きくなります。周期の差は小さくても、応答スペクトルの傾きが急な周期帯では応答加速度に効いてきます。
節点の付加質量は3方向に同じ質量として作用するため、本来は壁面に垂直な方向にのみ働く水の付加質量を正確には表せません。どちらの配分も近似であることを前提に使い分ける必要があります。
まとめ
衝撃質量の合計と震度をそろえても、与え方によって側壁のフープ力は -48%〜-25% 変わった。
付加質量を X方向の慣性力として与えると、接線方向の成分がフープ力にならず、フープ力を過小評価する。
cos²θ 配分では実際の動水圧にない円周方向の曲げ(22.2 kN·m/m、動水圧の約 9 倍)が生じた。
本例(R/H = 1.25)では Westergaard 式の合力は Housner より 4% 大きい程度で、断面力の差も小さかった。
本検討の適用範囲と限界
- 動水圧の衝撃成分のみの静的解析です。躯体の慣性力、対流(スロッシング)成分、上下動、側壁の変形と水の連成は考慮していません。
- 設計水平震度 kh = 0.25 は本検討での仮定値です。レベル2地震動に対しては別途の検討が必要です。
- Westergaard 式は本来ダム(無限長の貯水)を対象とした式で、円筒タンクへの適用は参考です。適用する基準の扱いは個別に確認が必要です【要確認】。
- 比較は1基の配水池(R/H = 1.25)に対するものです。細長いタンクでは各方法の差がさらに大きくなる可能性があります。
ご注意
- 本ページの数値は仮想事例に対する試算結果であり、他の施設にそのまま適用することはできません。
- 解析結果は、技術者による検証と照査を経て設計に用いることを前提としています。
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