同じ構造物を応答変位法(静的解析)と時刻歴の動的解析で解くと、答えが一致しないことがよくあります。そのとき「大きいほうを採ればよい」と片づけてしまうと、どちらのモデルの何が効いているのかが分からないままになります。思考2・3と同じ2連ボックスカルバートを、同じ地盤・同じ地震動で両方の方法で解き、差がどこから来るのかを分解してみました。
掲載内容について
構造物・地盤条件・入力地震動の選定は、技術説明のために設定した仮想事例(仮定値)であり、実案件の情報は含みません。数値は社内の地盤応答解析プログラム(1次元等価線形)、骨組解析プログラム(応答変位法)、2次元動的解析プログラム(地盤-構造物連成)による試算結果です。
同じ函体・同じ地盤・同じ地震動で比べる
比較をできるだけ公平にするため、動的解析の地盤には、応答変位法の入力に使った1次元等価線形解析の収束剛性 G と減衰 h を、そのまま各層に与えました(地盤は線形)。入力も、同じ1次元解析で得られた基盤上面の加速度波形です。こうしておけば、函体から十分離れた自由地盤では、動的解析は1次元解析とほぼ同じ揺れ方をするはずです。
| 項目 | 応答変位法(静的) | 2次元動的解析 |
|---|---|---|
| 地盤 | 1次元等価線形解析(タイプⅡ 3波) | 同じ解析の収束 G・h を各層に設定した線形の平面ひずみ要素 |
| 函体 | 骨組(部材中心線)+地盤ばね | 梁要素(部材中心線)、地盤と節点共有。モデル幅 100 m、要素 2,082 |
| 地震の作用 | 相対変位が最大の時刻の地盤変位・周面せん断力・慣性力 | 基盤上面の加速度波形を入力(20 s、Δt = 0.005 s) |
| 減衰 | (静的) | 各層の h を Rayleigh 減衰で設定(f1 = 1.34 Hz と 5f1 で合わせる)、躯体 5 %【仮定】 |
| 境界 | ― | 底面固定(入力)、側方は左右の同じ高さの節点を等変位で結合 |

結果:動的解析のほうが 2〜7 割程度大きい
T2-1 波の結果を図-2・図-3に、3波の比較を表に示します。函体の層間変位(中壁の上端と下端の水平変位の差)は、応答変位法の 7.12 mm に対し、動的解析では 11.11 mm でした。曲げモーメント(地震時の増分)の最大値は、動的解析のほうが中壁で 1.27〜1.47 倍、底版・側壁で 1.18〜1.36 倍、頂版で 1.50〜1.73 倍となりました。


| 入力波 | 地盤の相対変位 1次元 (mm) | 同 2次元動的の自由地盤 (mm) | 函体の層間変位 静的 (mm) | 同 動的 (mm) | 中壁 最大M 静的/動的 | 底版・側壁 最大M | 頂版 最大M |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| T2-1 | 16.2 | 18.0 | 7.12 | 11.11 | 626 / 795 | 719 / 846 | 439 / 659 |
| T2-2 | 16.0 | 19.1 | 7.04 | 11.83 | 620 / 841 | 714 / 899 | 434 / 696 |
| T2-3 | 11.9 | 15.2 | 5.64 | 10.01 | 505 / 743 | 591 / 805 | 355 / 612 |
地盤の相対変位は、函体の上面(深さ 3.0 m)と下面(深さ 7.8 m)の位置の差。曲げモーメントは地震時増分の最大値(kN·m/m)。動的解析の値は時刻歴の最大値です。
モーメント図の形(図-3)は、両者でよく似ています。どちらも函体が平行四辺形に変形するモードで、中壁と側壁の上下端、頂版・底版の端部で大きくなっています。違いは、主に「大きさ」にありました。
差を三つに分解する
差の原因として、次の三つを順に確かめました(図-4)。
① 地盤の揺れそのものが違う
動的解析の自由地盤(函体から 50 m 離れた左端)の相対変位は、1次元解析より 1.11〜1.28 倍大きくなりました。時刻歴の形はよく一致しており(相関係数 0.97〜0.98)、違いは主に振幅です。1次元の等価線形解析が周波数によらない減衰を使うのに対し、動的解析は Rayleigh 減衰で、合わせた2つの振動数の間では減衰が小さめになります。同じ G・h を与えても、減衰の表し方の違いで地盤の揺れが変わります。
② 函体と地盤の変形の関係が違う
函体の層間変位を地盤の相対変位で割った比は、応答変位法で 0.44〜0.47、動的解析で 0.62〜0.66 でした。応答変位法の地盤ばねを 0.5〜4 倍に変えても、この比は 0.41〜0.45 しか変わりません。今回の函体では、層間変形は主に頂版・底版に作用させる周面せん断力で決まっており、ばね定数の大小では差を説明できませんでした。連続体として地盤と一体に変形する動的解析と、自由地盤の値を荷重として与える応答変位法の、荷重の与え方の違いによるものと考えています【推定】。
③ 時刻と慣性の影響は小さかった
動的解析で、各部材の曲げモーメントの時刻歴最大値と、層間変位が最大となる時刻の値の差は 0.1 % 以内でした。この函体では、最大の断面力は地盤の変形が最大の時刻に生じており、時刻のずれや慣性力の位相は大きな要因ではありませんでした。なお T2-3 では、動的解析の最大時刻(8.26 s)と応答変位法で用いた時刻(9.11 s)が異なっています。

①の地盤の揺れの違いを差し引くため、中壁の最大曲げモーメントを地盤の相対変位で割って比べると、動的/静的の比は 1.13〜1.15 倍まで縮まります。中壁の差(1.27〜1.47 倍)のうち、対数で見て 43〜64 % が①、残りが②の地盤と函体の相互作用の表し方の違いに相当します。頂版は②の影響がより大きく出ています。
どちらが正しいのか
この問いには、どちらも正しい、あるいはどちらも仮定の上に立っている、と答えるしかありません。応答変位法は、地盤の変形を荷重に置き換えるための約束ごとを積み重ねた設計法です。動的解析も、減衰の与え方、境界条件、地盤と函体の接触(今回は完全付着)、材料の線形性といった仮定の上に成り立っています。
二つの解析の答えが違うとき、まず確かめるべきは「どちらが大きいか」ではなく、「同じ地盤を解いているか」である。
今回の試算では、中壁の差の 43〜64 % が「地盤の揺れそのもの」の違いでした。動的解析を行うときは、構造物を見る前に、まず自由地盤の応答が地盤応答解析と整合しているかを確かめます。そのうえで残った差が、構造物と地盤の相互作用の違いとして意味を持ちます。
設計では、基準類が定める手順に従ってどちらかの方法を用います。そのうえで、両者の差を要因ごとに説明できる状態にしておくことが、結果を発注者に説明するときの支えになると考えています。
まとめ
同じ函体・地盤・地震動で比べると、地震時の曲げモーメントは動的解析のほうが 1.18〜1.73 倍大きかった。モーメント図の形はよく似ていた。
中壁の差の 43〜64 % は、地盤の揺れそのものの違い(自由地盤の相対変位で 1.11〜1.28 倍)で、主に減衰の表し方の違いによると考えられる。
残りは函体と地盤の変形の関係の違い(層間変位比 静的 0.44〜0.47、動的 0.62〜0.66)で、地盤ばねの大小では説明できなかった。
二つの解析を比べるときは、自由地盤の応答をそろえることから始め、差を要因に分けて説明する。
本試算の適用範囲と限界
- 動的解析の地盤は等価線形の収束剛性を用いた線形モデルで、時刻歴の非線形性(ひずみに応じた剛性・減衰の変化)は考慮していません。
- 函体と地盤は節点を共有した完全付着とし、剥離・滑りは考慮していません。函体は部材中心線の梁要素で、地盤要素は部材中心線まで配置しています。
- Rayleigh 減衰の係数の決め方(合わせる振動数)により、自由地盤の応答は変わります。今回は 1 例のみです。
- 応答変位法の地盤ばね・周面せん断力の与え方は本試算での仮定です。適用する基準類と施設管理者の方針により確認が必要です【要確認】。
ご注意
- 本ページの数値は仮想事例に対する試算結果であり、他の構造物にそのまま適用することはできません。
- 解析結果は、技術者による検証と照査を経て設計に用いることを前提としています。
- 本文中の考察は、試算結果から読み取れる範囲での見解です。
静的・動的の両面から耐震性能を評価します
応答変位法による設計から、地盤-構造物連成の動的解析による確認、両者の差の要因整理まで一貫して対応します。資料の電子授受とWeb打合せにより全国対応しています。