レベル2地震動に対する函体の照査では、部材の非線形性を M-φ 関係で表した骨組解析がよく用いられます。ただし M-φ の骨格(ひび割れを考えるか、軸力をどう扱うか)は設計者の判断に委ねられる部分が多く、その選び方が結果にどの程度効くのかは案外整理されていません。本稿では2連ボックスカルバートの応答変位法を、線形と3種類の M-φ モデルで解き、断面力・変形・照査値の感度を比較しました。
掲載内容について
函体の寸法・配筋・地盤条件・入力地震動は、技術説明のために設定した仮想事例(仮定値)であり、実案件の情報は含みません。数値は社内の骨組解析プログラム(M-φ 要素による増分解析)と1次元地盤応答解析プログラムによる試算結果です。適用する基準・照査方法は、施設管理者の定める基準類に基づき個別に確認します。
検討条件と比較した M-φ モデル
| 構造 | RC 2連ボックスカルバート(内空 4.0 m × 3.5 m × 2室、土被り 3.0 m) |
| 部材厚 | 頂版 0.50 m、底版 0.60 m、側壁 0.50 m、中壁 0.40 m |
| 配筋 | 頂版・側壁 D22@150、底版 D25@150、中壁 D19@200(いずれも複鉄筋) |
| 材料 | コンクリート σck = 24 N/mm²、鉄筋 SD345 |
| 荷重 | 常時荷重を載荷したのち、応答変位法の地震時荷重(タイプⅡ T2-1、t = 5.70 s)を 40 段階で増分載荷 |
| ケース | M-φ の骨格 |
|---|---|
| A 線形 | 全断面有効の EI のまま(非線形性なし) |
| B トリリニア | ひび割れ点 → 降伏点 → 一定(軸力 N = 0 の断面計算) |
| C バイリニア | 原点と降伏点を直線で結ぶ(ひび割れ前の剛性を無視) |
| D トリリニア+軸力 | B と同じ形で、常時の軸力を考慮した断面計算から骨格を設定 |
M-φ の骨格は、ファイバー断面計算による M-φ 関係から設定しました。降伏点は、初降伏点(側壁 My0 = 356 kN·m/m)を通る直線を終局モーメント(391 kN·m/m)まで延長した点とし、降伏後の勾配は 0 としています(考え方は道路橋示方書の M-φ モデルを準用【要確認】)。履歴は Takeda 型ですが、本検討は単調載荷のため履歴の違いは結果に現れません。

| 部材 | ひび割れ Mc (kN·m/m) | 降伏 My (kN·m/m) | 降伏曲率 φy (1/km) | 常時軸力 N (kN/m) | 軸力考慮の My |
|---|---|---|---|---|---|
| 側壁 | 90 | 391 | 6.57 | 139 | 414(+6%) |
| 中壁 | 55 | 174 | 8.36 | 287 | 212(+22%) |
| 底版 | 132 | 615 | 5.47 | 154 | 646(+5%) |
断面力と変形の比較

| 部材面の最大曲げ (kN·m/m) | A 線形 | B トリリニア | C バイリニア | D トリリニア+軸力 |
|---|---|---|---|---|
| 頂版 | 350 | 205 | 169 | 216 |
| 底版 | 589 | 378 | 350 | 392 |
| 左側壁 | 512 | 306 | 284 | 319 |
| 右側壁 | 407 | 239 | 193 | 252 |
| 中壁 | 404 | 148 | 124 | 173 |
| 函体の層間変位 (mm) | 9.5 | 15.6 | 16.8 | 15.0 |
非線形のケースでは、層間変位が線形の 9.5 mm から 15.0〜16.8 mm(+58〜+76%)に増え、部材の曲げモーメントは大きく減りました。中壁では線形の 404 kN·m/m に対し、トリリニアで 148 kN·m/m(-63%)です。応答変位法の荷重の大半は地盤ばねを介して与える地盤変位なので、函体が柔らかくなるほど函体が負担する力は小さくなります。
注目したいのは、部材面の曲率が降伏曲率に達していない(φ/φy は最大 0.73)にもかかわらず、断面力がここまで変わったことです。差を生んでいるのは降伏ではなくひび割れによる剛性低下で、ひび割れ後の剛性は全断面有効の 1/5〜1/9 程度になります。
バイリニア(C)はひび割れ前の剛性を無視するぶん最も柔らかく、曲げはトリリニア(B)よりさらに 7〜19% 小さくなりました。常時軸力を考慮すると(D)、中壁の降伏モーメントが 22% 上がり、中壁の曲げは 173 kN·m/m と B より 17% 大きくなります。軸力の大きい中壁ほど、骨格の設定で結果が動きます。
照査値への影響

| 部材 | M/My A | B | C | D | V/Vy A | B | C | D |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 頂版 | 0.90 | 0.52 | 0.43 | 0.53 | 1.20 | 1.01 | 0.92 | 1.04 |
| 底版 | 0.96 | 0.62 | 0.57 | 0.61 | 1.45 | 1.19 | 1.20 | 1.20 |
| 左側壁 | 1.31 | 0.78 | 0.73 | 0.77 | 2.68 | 2.21 | 2.11 | 2.24 |
| 右側壁 | 1.04 | 0.61 | 0.49 | 0.61 | 1.38 | 1.18 | 1.06 | 1.19 |
| 中壁 | 2.32 | 0.85 | 0.71 | 0.81 | 1.62 | 0.65 | 0.54 | 0.75 |
M/My の My は各ケースの M-φ の降伏モーメント(A は N = 0 の値)。Vy はコンクリートの負担分のみ(せん断補強筋なし)で、側壁 199、中壁 146 kN/m(土木学会式を準用した概算【要確認】)。部材面は隅角部・中壁取付部の剛域(交差部材厚の 1/2)の外側。
線形解析では中壁の M/My が 2.32 となり曲げで不合格と判断されますが、M-φ を用いるとどのケースでも部材面は降伏に至りません。一方、左側壁のせん断は非線形のケースでも V/Vy = 2.11〜2.24 と耐力を大きく超えたままです。
曲げの判定はモデルの選び方で合否が入れ替わる一方、せん断の判定はどのモデルでも変わりませんでした。曲げ耐力の余裕を期待して非線形解析に移行する前に、せん断耐力(補強筋の有無、部材厚)を確認しておくことが、手戻りを減らす近道です。
まとめ
同じ地震時荷重でも、M-φ を考慮すると層間変位は 58〜76% 増え、部材の曲げは線形の 3〜7 割に減った。
差の主因は降伏ではなくひび割れによる剛性低下。ひび割れ前の剛性を無視するバイリニアは最も小さな断面力を与える。
常時軸力を考慮すると中壁の降伏モーメントは 22% 上がり、軸力の大きい部材ほど骨格の設定が効く。
曲げの合否はモデル次第で入れ替わったが、せん断はどのモデルでも耐力超過のまま。先にせん断を確認すべきである。
本検討の適用範囲と限界
- 応答変位法による1波(タイプⅡ T2-1)の1時刻の単調増分解析です。繰返しの影響、他の波形、動的解析との比較は対象外です。
- 常時荷重も地震時の地盤ばねを設定したモデルに載荷しています(常時を別の支持条件で解いて重ね合わせる方法とは異なります)。
- 軸力は常時の平均値で固定しており、地震時の軸力変動は考慮していません。
- M-φ の骨格・せん断耐力式・地盤ばねの推定式は本検討での仮定です(準用した基準の版・条項【要確認】)。
ご注意
- 本ページの数値は仮想事例に対する試算結果であり、他の施設にそのまま適用することはできません。
- 解析結果は、技術者による検証と照査を経て設計に用いることを前提としています。
函体・地下構造物の非線形解析のご相談
M-φ モデルの設定方針の整理から、せん断を含めた照査、補強案の比較まで対応します。資料の電子授受とWeb打合せにより全国対応しています。