PC円筒形配水池の耐震診断
解析手法の選定と、その根拠
自治体(上水道事業)様より、配水池3施設の耐震診断業務をお請けしています。対象はPC円筒形の地上水槽2池と、RC矩形の半地中構造物1池。重要度ランクA1の基幹施設です。本ページでは、着手前にどのような解析方針を立て、それをどう根拠づけたかを、指針の条項に沿ってご紹介します。
掲載にあたって
守秘義務に配慮し、発注者名・施設名・市町村名・想定断層名は伏せて掲載しています。構造諸元および解析方針は、技術的な説明に必要な範囲で公開の許容を得た内容に限っています。本業務は現在進行中であり、照査結果・対策工法については記載していません。
業務の概要と対象施設
同一敷地内にありながら、構造形式・竣工年度・地中埋設の有無がすべて異なる3施設です。地震時に支配的となる作用が施設ごとに根本的に異なるため、3施設を同じ手法で一括処理することはできません。施設ごとに解析手法を選定し、その根拠を方針書として整理したうえで、監督員の承諾を得る手順を取っています。
| 項目 | 配水池 |
|---|---|
| 構造形式 | PC円筒形 地上水槽 (ドーム屋根・1槽式) |
| 寸法 | 内径φ16.0m/水深H=5.0m |
| 有効容量 | 1,000m³ |
| 竣工 | 平成初期 |
| 基礎形式 | 直接基礎 |
| 重要度 | ランクA1 |
| H/D | 5.0/16.0≒0.31 |
| 土被り | なし(地上水槽) |
準拠基準
| 主基準 | 水道施設耐震工法指針・解説 2022年版(公益社団法人 日本水道協会) |
| 断面照査 | 2017年制定 コンクリート標準示方書[設計編](土木学会) |
| 地盤ばね・基礎 | 道路橋示方書・同解説IV下部構造編/V耐震設計編、建築基礎構造設計指針 |
| PC構造 | 水道用PCタンク設計施工指針・解説/貯水用円筒形PCタンク設計施工規準 |
以前の解析手法と、指針2022年版による新しい解析手法
本業務の3施設は、平成20年代に一度耐震診断を受けており、当時の結論は「耐震性能に問題はない」でした。それにもかかわらず再診断が必要になったのは、施設が劣化したからではありません。診断の前提そのものが、この15年あまりで入れ替わったからです。
| 項目 | 前回診断(平成20年代) | 本業務(令和8年度) |
|---|---|---|
| 準拠基準 | 指針1997年版 | 指針2022年版 |
| 重要度 | ランクA | ランクA1(耐震化計画の急所施設) |
| 検討した地震動 | レベル1のみ | レベル1+レベル2 |
| 照査体系 | 許容応力度法(発生応力度≦短期許容応力度) | 限界状態設計法(限界状態1/2/3の性能照査) |
| 耐震計算法 | 震度法(静的・線形) | 動的非線形解析を基本とする |
| 地盤条件 | 一部施設は地盤条件が不明のため、近傍施設の状況から地質構成を仮定 | 機械ボーリング・標準貫入試験・PS検層・土質試験を新規実施。液状化・側方流動判定を含む |
| 材料条件 | 設計基準強度をそのまま使用。経年劣化の反映なし | 圧縮強度・中性化深さ・かぶり厚の実測値+直近の点検結果を反映 |
| PC構造物の経年劣化 | 未評価 | 指針参考資料に基づき考慮 |
| 参照した想定地震 | 当該地は震度6強 | 県の被害想定調査の更新により震度7 |
前回の「問題なし」は、レベル1地震動・許容応力度法の枠内での結論です
レベル2地震動に対する性能照査は一度も実施されておらず、地盤条件・材料条件とも実測値に基づいていません。さらに参照すべき想定地震が、県の被害想定調査の更新により震度6強から震度7へ見直されています。この4点が重なると、同じ施設でも結論が変わり得ます。
同様の条件に当てはまる施設は、全国の水道事業体に相当数あります。「平成20年代に診断済み」であることは、現行指針への適合を意味しません。
要求性能と目標とする限界状態(重要度ランクA1)
| 地震動 | 要求性能 | 目標とする限界状態 | 内容 |
|---|---|---|---|
| レベル1 | 使用性 | 限界状態1 | 地震後も所要の水密性・機能を保持し、無被害であること。部材は概ね弾性範囲内にとどめる。 |
| レベル2 | 復旧性 | 限界状態2 | 生じた損傷が軽微な補修で機能回復できる範囲にとどまり、地震後も貯留機能(水密性)を保持すること。 |
| レベル2 | 安全性 | 限界状態3 | 構造物が自己崩壊せず、貯留水の全量流出に至らないこと。 |
※ 指針では、設計者判断により上位(安全側)の限界状態を目標としてよいとされています。本業務では施設の重要度を踏まえ、限界状態2を主たる判定基準として運用する方針としました。
PCタンクの構造と、確認すべき損傷モード
PCタンクは、環状に配置したPC鋼材で側壁にあらかじめ圧縮力を与え、内水圧によるフープ張力を打ち消すことでひび割れを許さない構造として成立しています。つまり「プレストレスが設計時のまま残っていること」が耐力の前提であり、ここがRC構造物との決定的な違いです。断面寸法と配筋だけを図面から拾って計算しても、実態に合った診断にはなりません。
FIG.1 PC円筒形タンク(ドーム屋根)の構造とPC鋼材配置(左:縦断面/右:平面)
既設PCタンクで確認する損傷モード
| 損傷モード | 主な原因 | 解析上の扱い |
|---|---|---|
| 有効プレストレスの減少 | コンクリートのクリープ・乾燥収縮、PC鋼材のリラクセーション | 低減率を設定し、環状方向の応力照査に反映 |
| PC鋼材の腐食・破断 | シース内グラウトの充填不良、定着部からの水の浸入 | 該当区間のプレストレスを消失として評価、または部分的な断面低減 |
| 環状方向のひび割れ | プレストレス不足、地震時の動水圧付加 | ひび割れ発生限界の照査(引張応力度が制限値を超えないこと) |
| 鉛直方向の曲げ・せん断 | 基部の拘束条件、地震時の慣性力・動水圧 | 鉛直方向の曲げ・せん断照査。基部が固定か可動かで結果が大きく変化 |
| 側壁基部の支承・止水部 | ゴムの経年劣化、想定を超える相対変位 | 支承のばね定数・可動制限をモデルに反映。変位量で照査 |
| スロッシングによる屋根の損傷 | 余裕高の不足、屋根版への衝撃圧 | 1次スロッシング周期から波高を算定し、余裕高と比較 |
| 底版の浮上り・滑動 | 地盤反力の偏り、空虚時の浮力 | 安定計算(転倒・滑動・浮上り)。空虚時が支配となる場合あり |
※ 上表のうち、PC鋼材の腐食・グラウト充填不良は図面からは判断できません。診断の初期段階で、非破壊調査の実施要否をご相談させていただきます。
解析手法の選定と、その根拠
「なぜその手法を選んだのか」を説明できないまま解析に着手すると、中間協議や照査の段階で手戻りが発生します。本業務では、解析次元・レベル1/レベル2の計算法それぞれについて、指針の条項と施設の形状条件から選定理由を整理し、第1回中間協議で監督員の承諾を得る手順としました。
| 解析次元 | 3次元。円筒シェル構造は断面力が円周方向に変化し、加力方向0°・180°で最大となるため、2次元モデルでは表現できない。前回診断も3次元シェルモデルで実施しており、継続性の観点からも3次元とする。 |
| レベル1 | 震度法(線形)による3次元シェル解析。限界状態1(発生応力度≦許容応力度)の照査。前回診断と同一の土俵での比較が可能になる。 |
| レベル2 | 動的非線形解析(時刻歴応答解析)。限界状態2/3の照査を行う。 |
レベル2を動的非線形解析とした理由
円筒形PCタンクは、加力方向に沿って円周方向軸力と鉛直方向曲げモーメントの分布が連続的に変化し、さらに躯体慣性力と地震時動水圧の位相差が応答を支配します。これらを等価な静的荷重に置き換える手法では、限界状態2/3の照査に必要な応答量を直接評価できません。
容量による分岐は、選定理由にしない
指針のレベル2耐震計算法の選定フローには容量による分岐がありますが、本施設は容量がちょうど1,000m³で境界上にあたり、判定が分岐の解釈に依存します。したがってこれを手法選定の主要な根拠とはせず、特記仕様書の定めと力学的理由により選定しています。境界上の数値をもって「フロー上こちらに該当する」と説明すると、協議で必ず突き返されます。
使用ソフトウェア
| 用途 | ソフトウェア | 選定理由 |
|---|---|---|
| 1次元地盤応答解析(等価線形) | SHAKE系解析コード | 地盤のひずみ依存性を考慮した地表面加速度・地盤変位の算定 |
| PC円筒形タンク 3次元シェル解析 | midas FEA NX | コンクリート専用の非線形FEM。全ひずみ分布ひび割れモデル、埋め込み鉄筋・テンドン要素によるプレストレス導入に対応 |
| RC矩形槽 2次元非線形フレーム | midas FEA NX | M-φ非線形フレーム、地盤ばね、強制変位入力に対応 |
| 断面照査・限界状態照査 | 自社照査システム | 解析出力の断面力・応答値を受け、限界状態1/2/3の照査を一元的に処理 |
内容水を「付加質量」で扱ってよい、と言い切るための根拠
内容水を有限要素として分割し接触要素を設ける連成系モデルは、物理的には最も忠実ですが、全要素数が膨大となり非線形動的解析に多大な計算時間を要します。一方、動水圧と等価な質量を側壁の各節点に与える付加質量モデルは劇的に軽くなりますが、「なぜ簡略化してよいのか」を形状条件で示さなければ、協議で通りません。
FIG.2 内容水のモデル化:連成系モデルと付加質量モデル
流体要素を用いる連成系モデル(左)は物理的に最も忠実ですが計算負荷が大きく、動水圧と等価な質量を側壁節点に与える付加質量モデル(右)は軽量です。形状比(H/D・D/H)の条件を満たす場合に、後者の簡略化が成立します。
本施設で付加質量モデルを採用できる根拠
H / D = 5.0 / 16.0 ≒ 0.31
1.0以下=剛な構造物。バルジング(側壁の面外振動と液体の連成)の影響は考慮不要と判断できます。
D / H = 16.0 / 5.0 = 3.2
1.5以上。この範囲では、付加質量モデルと連成系モデルの応答がよく一致することが指針に示されています。
※ 逆に言えば、H/Dが1.0を超える縦長のタンクでは、この簡略化は使えません。同じ「PCタンク」でも形状比によって適用できる手法が変わるため、診断の初期段階で必ず確認します。
積層シェル要素によるモデル化
本業務の技術的な中心はここです。積層シェル要素は、板厚方向を複数の層に分割し、層ごとに独立した材料構成則・厚さ・配置角を与えることで、面内力(円周方向軸引張力)と面外曲げ(鉛直方向曲げモーメント)が連成する断面の非線形挙動を、1要素で表現できます。断面を分解することなく、ひび割れの発生と進展、中立軸の移動、鉄筋およびPC鋼材の降伏を直接追跡できるのが利点です。
FIG.3 積層シェル要素の層構成と、板厚方向の応力状態の変化
各層はSimpson積分。隅角部および部材接合部には剛域を設定します。塑性化は「かぶり層のひび割れ発生 → 鉛直方向鉄筋の降伏 → 円周方向鉄筋の降伏 → 芯部層の圧縮軟化」の順に進展します。
解析モデルの構成
タンクの対称性を考慮し1/2モデルとしています。ドーム屋根と側壁は一体構造としてモデル化し、側壁は8節点四角形シェル要素、ドーム屋根は6節点三角形シェル要素。PC鋼材は埋め込みトラス要素として積層シェル要素の内部に埋め込み、有効プレストレスを初期応力として導入します。内容水は付加質量モデル(流体要素は用いない)。
FIG.4 積層シェル要素による解析モデル(層ごとに材料構成則を設定)
側壁・ドーム屋根・底版に積層シェル要素を適用。層は「外面かぶり層-外面鉄筋層-芯部コンクリート層(複数分割)-内面鉄筋層-内面かぶり層」に分割し、各層はSimpson積分としています。隅角部および部材接合部には剛域を設定します。
FIG.5 埋め込みトラス要素によるPC鋼材のモデル化(縦締めPC・横締めPC)
PC鋼材は埋め込みトラス要素として積層シェル要素の内部に埋め込み、円周方向および鉛直方向のテンドン配置を再現します。シェル要素と節点を共有する必要がないため、要素分割とテンドン配置を独立に設定できます。
材料構成則
| 材料 | 構成則 |
|---|---|
| コンクリート | 圧縮側:Drucker-Pragerの降伏条件(α=0.07、K=0.507f'ck)。引張側:Tension cut-off。ひび割れは分布ひび割れによりモデル化し、tension stiffeningを考慮。 |
| 鉄筋 | 完全弾塑性型バイリニア骨格曲線。降伏条件:von Mises。除荷剛性は初期剛性。 |
| PC鋼材 | トリリニア型骨格曲線。降伏条件:von Mises。除荷剛性は初期剛性。 |
※ 側壁は板厚に対して曲率半径が十分に大きい薄肉シェルであり、ソリッド要素によるモデル化は行わず積層シェル要素を用いています(ソリッド要素では非線形動的解析の計算規模が過大となり、収束性の確保も困難となるため)。
入力方法と解析ケース
PC構造物の非線形解析では、初期状態をどう作るかで結果が決まります。プレストレスと静水圧を一度に載荷すると、実際には生じない応力履歴を与えてしまうため、施工手順に沿った段階載荷により初期状態を作り、その応力・ひずみを初期値として動的解析に引き継ぎます。
| 初期状態の設定 | ①自重 → ②円周方向プレストレス → ③鉛直方向プレストレス → ④静水圧 の順に段階載荷し、これによる応力・ひずみを初期値(初期ひずみ)とする。 |
| 動的非線形解析(時刻歴応答) | 上記の初期状態を初期値とし、直接積分法による。数値積分にはNewmarkのβ法(β=1/4)を用い、応答計算の時間刻みは1/500秒を基本とする。地震の影響である躯体慣性力および動水圧を同時に作用させ、動水圧は速度ポテンシャル法に基づき側壁に対し垂直に作用させる。 |
| 減衰 | 初期剛性比例減衰により与え、内容水と連成振動するタンクの1次固有振動数に対しモード減衰数h=10%を適用する。 |
| 加振方向 | 水平1方向。鉛直方向の地震の影響は静的地震力として考慮する。直交2方向の同時入力は行わない。 |
| 固有周期の評価 | 1自由度系モデルによる算定ではなく、3次元モデルによる固有値解析により評価する。あわせて容器構造設計指針・同解説の算定式による値と比較し、妥当性を確認する。 |
| スロッシング | レベル2地震動作用時の液面揺動高さを算定し、ドーム屋根および付帯設備への影響(屋根への衝突の有無)を確認する。 |
解析ケース(PC円筒形タンク・1池あたり)
| No. | 解析種別 | 水位 | 目的・主な照査項目 |
|---|---|---|---|
| C-0 | 常時(静的) | 満水 | 初期応力状態の確認(自重+プレストレス+静水圧) |
| C-0' | 常時(静的) | 空水 | プレストレスによる円周方向圧縮の確認 |
| C-1 | L1 震度法(線形) | 満水 | 限界状態1:発生応力度≦許容応力度 |
| C-2 | L1 震度法(線形) | 空水 | 限界状態1、コンクリート圧縮応力度、滑動・浮上り |
| C-3 | L2 動的非線形(時刻歴) | 満水 | 限界状態2/3:円周方向鉄筋の応答ひずみ、PC鋼材が降伏しないこと、鉛直方向の設計曲げ耐力 |
| C-4 | L2 動的非線形(時刻歴) | 空水 | 同上 |
水位ケースの設定理由
満水時:地震時動水圧および円周方向引張(フープテンション)が最大となる。側壁の円周方向照査、限界状態2/3が支配。
空水時:内水圧がなくプレストレスによる円周方向圧縮が最大となる。また自重が小さく、滑動・浮上りに対して不利となる。
PCタンクでは「空にすると危ない」という状態が実在します。満水時のみの検討では危険側となり得るため、空水時を必須ケースとしています。
同じ敷地でも、半地中構造物は別の手法で解く
3施設のうち1施設は、頂版天端が概ね地表面レベルにあり周囲が盛土された半地中構造物です。地上水槽とは、地震時に支配的となる作用が根本的に異なります。ここを取り違えると、どれだけ精緻なモデルを作っても答えは合いません。
FIG.6 支配的となる地震時作用の違い(左:地上水槽/右:半地中構造物)
地上水槽は躯体慣性力と動水圧が支配し、地盤は底版下のばねとしてのみ現れます。半地中構造物は周面せん断力・地震時土圧を伴う地盤変位が支配し、地盤変位そのものを強制変位として与える必要があります。
| 項目 | 地上水槽(PC円筒形) | 半地中構造物(RC矩形) |
|---|---|---|
| 支配的な地震作用 | 躯体慣性力+地震時動水圧 | 地盤変位(周面せん断力・地震時土圧) |
| 地盤のモデル上の役割 | 底版下の地盤ばねのみ。地盤変位はモデルに入らない | 地盤ばね+地盤変位を強制変位として入力 |
| 主たる解析手法 | 震度法/動的非線形解析 | 応答変位法(L2はM-φ非線形フレーム) |
| 地盤解析の用途 | 地表面加速度・時刻歴の算定 | 深度方向の地盤変位分布の算定 |
| 三次元効果 | 3次元シェルで直接評価 | 隔壁・妻壁による面内せん断剛性の向上を等価ブレース置換でモデルに組み込み、3次元骨組モデルによる確認を行う |
| 解析ケース数 | 6ケース/池 | 10ケース(横断・縦断の2断面×満水/空水/片満) |
※ 前回診断でこの施設に震度法・2次元フレーム解析が採用されたのは、地盤条件が不明で地盤変位を算定できなかったためです。今回はボーリングにより地盤変位が算定可能となるため、地中構造物として素直に応答変位法を主案としています。
照査項目と限界値
円筒形PCタンクの照査は、円周方向と鉛直方向で見るものが違います。円周方向はプレストレスとフープ張力の釣合い、鉛直方向は曲げ。それぞれ限界状態ごとに照査項目を整理しています。
| 限界状態 | 円周方向 | 鉛直方向 |
|---|---|---|
| 限界状態1(使用性) | 応力(軸力・曲げモーメント・面内せん断力)≦許容応力度 | 同左 |
| 限界状態2(復旧性) | 残留ひび割れ幅≦限界値/円周方向鉄筋の応答ひずみ≦許容ひずみ | 設計曲げ耐力≧応答曲げモーメント |
| 限界状態3(安全性) | 円周方向PC鋼材が降伏しないこと(軸引張力) | 設計曲げ耐力≧応答曲げモーメント |
| 照査断面 | 加力方向0°および180°の断面。水深方向には側壁下端・中間高さ・上端の3レベルを基本とする。 |
| 面内せん断力 | 鉛直方向にプレストレスが導入されているため、面内せん断力の検討は省略できる。導入の有無は竣工図により確認する。 |
| 底版・ドーム屋根 | RC部材として、池状コンクリート構造物の規定に準拠して照査する。 |
| 基礎 | 直接基礎として支持力・滑動・転倒を照査する。液状化層が確認された場合は沈下・傾斜の検討を追加する。 |
許容せん断応力度の体系差 ─ 合否が2倍変わる
照査に用いる許容せん断応力度τa1は、道路橋示方書系(f'ck=24で0.23N/mm²)と水道施設系(0.45N/mm²)で約2倍の差があり、せん断の合否を直接左右します。
どちらの体系に準拠するかを解析着手前に1つに固定し、中間協議で確認する。これを曖昧にしたまま照査まで進めると、結論が出た後で体系の差し替えを求められ、照査計算がすべてやり直しになります。
着手前に、潰しておく
解析着手後の手戻りを防ぐため、解析条件の確定に必要な事項と、発注者に照会・協議すべき事項を方針書の最終章に一覧として整理し、第1回中間協議の議題としています。
追加提案:PCグラウト充填調査
指針の参考資料は、既設のPCタンクについてPCグラウトの充填不足が疑われる事象に対し、グラウト充填調査を耐震診断業務に組み入れて診断を行う必要があるとしています。
対象施設のうち1池は、PCタンクの標準仕様書が制定された時期と同時期の竣工であり、充填不足のリスクが高い世代にあたります。グラウトが不十分な場合、PC鋼材が有効に機能せず、限界状態3(PC鋼材が降伏しないこと)の照査前提そのものが成立しません。コア削孔による充填状況の確認を提案しています。
工程上のクリティカルパス
解析条件のうち「設計地震動の選定」と「1次元地盤応答解析」は、元請が実施する地質調査(機械ボーリング・標準貫入試験・PS検層・土質試験)の報告書がなければ確定できません。したがって、地質調査報告書の受領時期が、以降の解析工程全体の着手時期を規定します。
地質調査報告書の受領 → 地盤モデルの設定 → 1次元地盤応答解析 → 設計地震動の確定 → 構造解析の着手
この順序は変更できません。報告書の提出が遅延した場合、解析工程全体が後ろ倒しとなるため、提出時期を第1回中間協議で確認します。
照査・評価のとりまとめと成果品
とりまとめの手順
- 解析出力(断面力・応力度・ひずみ・変位)を部材・照査断面ごとに整理し、照査表の入力シートに取り込む
- 限界状態1/2/3ごとに照査を行い、「応答値/限界値」の比により余裕度を定量的に示す
- 耐震性能不足となる部材・部位を一覧化し、不足の程度と原因(曲げ/せん断/ひび割れ/PC鋼材)を明示する
- 構造全体系としての自己崩壊の有無、取り合い管路・伸縮目地の相対変位、水密性の確保状況を評価する
- 施設ごとに耐震性能を総合評価し、対策の要否を判定する
- 対策を要する場合は、耐震補強と経年劣化修繕をパッケージ化した対策工法の検討に移行する
成果品
対策後のモデルを再構築して構造解析を行い、要求性能の回復を定量的に証明するところまでを一連の成果としています。
