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TECHNICAL NOTE / SEISMIC ANALYSIS OF WATER TREATMENT FACILITIES

浄水場構造物の耐震解析
設計条件の整理から、二次元動的解析・照査・報告書作成まで

池状構造物は、躯体の立体性・中壁配置・水位条件・地盤拘束が相互に効くため、汎用的な一手法では説明しきれません。当社は、確認したい損傷モードから解析手法を選定し、静的解析で初期応力を確定させたうえで二次元動的解析(FEM)に進み、曲げ・せん断の照査までを一貫して行います。本ページでは、実務でそのまま使える手順と成果品の形を、仮想事例を用いて公開します。

二次元動的解析(FEM) 応答変位法 L1 / L2 照査 非線形(修正武田・R-O) 粘性境界 断面力図・数量・報告書

掲載事例について

本ページに掲載する図・数値・施設構成は、技術説明のために作成した仮想事例(A市 第二浄水場・仮称)です。実案件の施設名・所在地・発注者名・図面・実数値は一切含みません。実績に関する具体的なご照会は、守秘義務の範囲内で個別にご説明いたします。

01

対象施設と、ご相談の多い課題

対象となる構造物
着水井 沈殿池 ろ過池 薬品注入施設 送水ポンプ棟 配水池 場内連絡管渠 管理本館
ご相談の多い課題
竣工図と現況が一致せず、開口補強や改造履歴の扱いが決められない
施設数が多く、どこから耐震診断を進めるべきか優先順位が立たない
躯体は成立しているが、配管取合い部・設備支持部の評価が抜けている
既往診断はあるが、改定後の指針に対する適合性が確認できていない
静的照査ではNGだが、動的解析まで踏み込めば成立するのか判断できない
沈殿池(仮想事例のイメージ)

池体の立体性、中壁配置、水位条件、地盤拘束を踏まえて解析モデルを設定します。施設ごとに支配要因が異なるため、確認したい損傷モードから手法を選びます。

02

解析の進め方と、工程ごとの合格条件

動的解析は「回してみたら発散した」「結果が出たが妥当性を説明できない」という失敗が起こりやすい工程です。当社では工程を6段階に分け、各段階の終わりに次工程へ進むための合格条件(GATE)を置いています。GATEを満たさない限り次に進まないため、後戻りが最小化され、照査結果の根拠を発注者へ説明できる形で残せます。

PHASE 0
条件整理・モデル化方針

竣工図・地質柱状図・現況調査の突合、解析断面の選定、部材諸元と配筋の整理、面外方向の有効幅の確定。

GATE 図面・入力データが完全に一致
PHASE 1
静的解析(初期応力)

常時荷重による初期断面力を確定。動的解析の t = 0 と一致させるための基準値になります。

GATE 常時 M / Mu < 1、手計算と ±15% 以内
PHASE 2
動的解析・診断計算

短時間(10秒程度)の試計算で、境界条件・非線形パラメータ・時間刻みの妥当性を確認。

GATE 発散せず、最大せん断ひずみが適用範囲内
PHASE 3
動的解析・本計算

L1・L2地震動による全時刻歴応答を算出。入力波は複数波・水位条件別に実施します。

GATE エラーなし、t=0の断面力が静的解析と一致
PHASE 4
照査(曲げ・せん断)

全要素・全時刻の最大値抽出、曲げ耐力・せん断耐力照査、必要補強量の算定。

GATE 独立した手計算によるダブルチェックが一致
PHASE 5
図面・数量・報告書

断面力図、照査判定図、補強範囲図、数量計算、報告書一式を作成。

GATE 社内照査会にて第三者確認

※ 標準的な1断面あたりの所要は3〜4日程度です。中壁・開口・地層傾斜が複雑な断面では、PHASE 0に時間を要する場合があります。

03

設計条件の整理

池状構造物では、水位条件と荷重組合せの設定が結果を大きく左右します。満水時が常に不利とは限らず、空虚時に外側土圧・地震時土圧増分が卓越して内側引張が支配となるケースが実務上しばしば現れます。そのため当社では、原則として満水・空虚・片側満水の3条件を必須ケースとして設定します。

検討ケース(仮想事例:A市 第二浄水場 沈殿池)

ケース 荷重状態 水位条件 解析手法 照査の目的
CASE-1 常時 満水(H.W.L) 静的解析(FEM) 初期応力の確定・使用性
CASE-2 常時 空虚 静的解析(FEM) 外土圧卓越時の内側引張
CASE-3 L1地震時 満水 二次元動的解析 健全性の保持(弾性域)
CASE-4 L2地震時 満水 二次元動的解析(非線形) 曲げ・せん断の終局照査
CASE-5 L2地震時 空虚 二次元動的解析(非線形) 中壁・外壁の内側引張
CASE-6 L2地震時 片側満水 二次元動的解析(非線形) 中壁の偏荷重・せん断

主要な入力条件

項目 設定値(仮想事例) 設定の根拠・留意点
構造形式 RC 2室 ボックスラーメン 中壁を有するため、面外方向の有効幅の設定が必須
断面寸法 B=18.0m H=6.4m 頂版・底版・外壁 t=600mm、中壁 t=400mm
土被り 1.8m 頂版上の上載荷重・埋戻土の単位体積重量を確認
コンクリート σck=24N/mm² 既設は材令・中性化を考慮し、必要に応じ試験値を採用
地盤モデル 多層(5層) PS検層によるVs実測値を原則とし、無い場合はN値からの推定と併記
地盤の非線形 R-Oモデル/H-Dモデル ひずみが適用範囲を超えた場合は、有効応力解析への移行を検討
部材の非線形 修正武田モデル(三折線) 除荷剛性低下指数βの設定は算定上限の範囲内で切り下げる
境界条件 粘性境界(側方・底面) 側方と底面で成分が入れ替わるため、入力を必ず相互確認
入力地震動 L2タイプⅠ・タイプⅡ各3波 基盤入力(2E)の場合はデコンボリューションの要否を判断

※ 上表は仮想事例の設定値です。実案件では、地質調査結果・既往診断・施設の重要度区分に応じて個別に設定します。

04

解析モデルと境界条件

地盤は平面ひずみ要素、躯体ははり要素(非線形M-φ)でモデル化し、地盤と躯体の間にはジョイント要素を設けて剥離・すべりを考慮します。モデル幅は構造物幅の5倍以上を確保し、側方・底面には粘性境界を設定して解析領域外への逸散減衰を表現します。

二次元FEM解析モデル

FIG.1 二次元FEM解析モデル(仮想事例:沈殿池 横断方向)。両端に自由地盤要素を設け、側方境界での反射を抑制します。地震動は工学的基盤に入射(1次元地盤応答解析の結果より、Vs=630m/sの層上面の地震動を用いる)。解析領域は構造物幅の5倍以上を確保します。

POINT 01

面外方向の有効幅の設定。梁ピッチや隔壁配置を無視して単位幅で扱うと、頂版の曲げが過大に評価されます。伏図による確認を必須としています。

POINT 02

断面力の符号規約の統一。GUI表示・出力ファイル・照査シートで符号定義が異なると、そのまま誤判定につながります。変換規約を文書化しています。

POINT 03

常時で既に曲げ耐力を超える要素がないかの事前確認。ここを放置したまま動的解析に進むと、計算の発散原因となります。

05

荷重の考え方(常時/L2地震時)

常時は自重・土圧・内水圧・上載荷重の釣合いで決まりますが、地震時はこれに慣性力・地震時土圧増分・動水圧・周面せん断力が加わり、さらに地盤の相対変位が躯体に強制変形として作用します。動的解析ではこれらを個別に足し合わせるのではなく、地盤-構造連成系の応答として同時に評価します。

[1]常時(満水時)
  • 上載荷重 q + 鉛直土圧 γ·h
  • 静止土圧 P₀(左右対称)
  • 内水圧(静水圧)
  • 躯体自重 W
  • 地盤反力
[2]L2地震時(満水時)
  • 周面せん断力 τ(頂版・底版)
  • 地震時土圧 増加側 P₀+ΔPₑ/減少側
  • 動水圧 pd(Westergaard放物線)
  • 慣性力 kh·W
  • 地盤の相対変位(強制変形)

※ 空虚時は内水圧・動水圧が消失し、外側土圧が卓越するため、内側引張が支配的となる場合があります。満水時のみの検討では危険側となり得ます。中壁は片側満水時に偏荷重を受けるため、せん断照査上のクリティカル部材となることがあります。

動水圧(Westergaard式)

pd = 7/8 · kh · γw · √(H · y)

p_d 水面から深さyにおける動水圧(kN/m²)
k_h 設計水平震度
γ_w 水の単位体積重量(=9.8kN/m³)
H 水深(m)/y 水面からの深さ(m)

※ 上式は剛体壁を前提とした簡易式です。壁の可撓性が無視できない場合や、中壁で両側から作用する場合は、流体要素または付加質量によるモデル化を検討します。

06

二次元動的解析

入力地震動を工学的基盤に与え、地盤と躯体の応答を時刻歴で追跡します。地盤はR-Oモデル等でひずみ依存の非線形性を、躯体は修正武田モデルでひび割れ・降伏後の剛性低下と履歴減衰を表現します。L2では躯体が明確に非線形域に入るため、除荷剛性低下指数βの設定が結果を大きく左右します。入力波はL2タイプⅠ・タイプⅡ各3波(計6波)を用い、全波・全時刻の最大値をもって照査します。

除荷剛性低下指数βの上限

β ≦ 1 − ln(F₂/F₁) / ln(D₂/D₁)

F₁, F₂ ひび割れ時・降伏時のモーメント
D₁, D₂ ひび割れ時・降伏時の変形(曲率)
β 除荷時の剛性低下を表す指数。算定値を切り下げて採用

βを切り上げて設定すると、要素数だけエラーが発生して計算が成立しません。骨格曲線の三折線から算定される上限値に対し、必ず切り下げた値を採用します。

計算が成立しないときに、まず疑う点

症状 主な原因 対処
初期段階で発散する 常時の時点で曲げ耐力を超える要素が存在する PHASE 1に戻り、面外有効幅・配筋・断面諸元を再確認
BETA NGが多数発生 除荷剛性低下指数βが上限を超えている 三折線から上限値を算定し、切り下げた値に修正
t=0の断面力が静的解析と不一致 初期応力の受け渡し時の符号・端部の取り違え I端・J端の符号規約を変換表に照らして再確認
応答が過大/振動が止まらない 粘性境界の成分(Vp/Vs)の取り違え 側方と底面で成分が入れ替わることを前提に再設定
せん断ひずみが適用範囲外 全応力解析の限界を超えている 有効応力解析への移行、または地盤定数の再評価を検討

※ 当社では、これらを含む40項目の人的確認チェックリスト25件の既知の不具合事例集を整備し、各工程のGATEで適用しています。

07

断面力の抽出と照査

全要素・全時刻・全入力波の応答から最大値を抽出し、曲げ・せん断の照査を行います。抽出は自動化していますが、クリティカル部位については必ず独立した手計算でダブルチェックし、両者が一致することをGATE 4の条件としています。

照査の基本形

γᵢ · M_d / M_ud ≦ 1.0  γᵢ · V_d / V_yd ≦ 1.0

M_d 設計曲げモーメント(動的解析の最大応答値)/M_ud 設計曲げ耐力
V_d 設計せん断力/V_yd 設計せん断耐力(V_cd + V_sd)
γᵢ 構造物係数(施設の重要度に応じて設定)

※ 既設構造物ではせん断補強筋が確認できない場合が多く、その際はV_sd=0とした安全側の評価を基本とし、はつり調査等による確認の要否を併せてご提案します。

照査判定図(曲げ:M/Muによる色分け/仮想事例)

頂版 底版 外壁 外壁 中壁
M/Mu < 0.85 OK
0.85≦M/Mu<1.00 要注意
M/Mu≧1.00 NG(要補強)

判定は全入力波・全時刻の最大値に対して行い、正負両方向を確認します。NG部位はそのまま補強範囲図・数量計算へ連動させます。

照査結果の整理(仮想事例)

部位 最大Md(kN·m/m) Md/Mud Vd/Vyd 判定 支配ケース
頂版 隅角部 820 1.24 0.88 NG(曲げ) CASE-4
頂版 中央部 560 0.61 0.44 OK CASE-4
外壁 上端 820 1.16 0.91 NG(曲げ) CASE-5
外壁 中央部 430 0.69 0.52 OK CASE-5
底版 隅角部 980 1.31 1.04 NG(曲げ・せん断) CASE-4
中壁 上端 310 0.86 0.73 要注意 CASE-6

※ 数値は技術説明のために作成した仮想事例です。実案件の値ではありません。

08

補強方針の比較と提案

NG部位が確定したら、工法を一つに決め打ちせず、断水制約・施工空間・供用への影響・概算工事費を並べて比較できる形でご提示します。浄水場では「施工中に池を止められる期間」が実質的な制約条件になることが多いためです。

工法 主な適用部位 断水の要否 施工空間 留意点
増厚工法(内面) 外壁・中壁 必要 池内足場 有効容量が減少。処理能力への影響確認が必要
増厚工法(外面) 外壁・頂版 不要の場合あり 掘削が必要 埋設管・場内道路との干渉調整
鋼板接着 頂版・梁 原則不要 上部からの進入 接着面の下地処理品質が耐力を左右
繊維シート接着 頂版・壁の曲げ 原則不要 せん断補強効果は限定的。定着長の確保が要
後施工せん断補強筋 底版・隅角部 必要 池内 既存配筋の探査が前提。削孔位置の管理が要
地盤改良 基礎地盤 不要 外周部 液状化が支配要因の場合に有効

※ 実際の選定では、上表に加えて維持管理性・耐久性・将来の更新計画との整合を含めて比較検討します。

09

成果品

耐震診断・耐震設計 報告書(本編・資料編)
解析モデル図・地盤定数一覧
入力地震動の設定根拠と時刻歴データ
断面力図(M / N / S)一式
照査計算書(曲げ・せん断・全部材)
照査判定図・補強範囲図
補強工法の比較検討書
数量計算書・概算工事費
解析データ一式(再現可能な形で納品)
照査記録(GATE判定記録・ダブルチェック記録)

解析データは、第三者が同じ条件で再現できる形でお渡しします。次年度以降に他社が引き継ぐ場合でも、設定根拠が追跡できる状態を維持することを方針としています。

10

標準工程の目安

工程 目安
資料収集・現地踏査 2〜3週
条件整理・モデル化 2〜3週
静的解析・初期応力 1〜2週
動的解析(1断面あたり) 3〜4日
照査・補強検討 3〜4週
図面・数量・報告書 3〜4週

※ 1施設・複数断面の標準的なケースで、着手から成果品納品まで概ね4〜6か月です。断面数、既往資料の充足度、地質調査の要否により変動します。

スポット対応も承ります

「動的解析の部分だけ」「照査のダブルチェックだけ」「発散する解析の原因調査だけ」といった部分委託にも対応しています。すでに他社が着手済みの案件でも、条件整理からお引き受けできます。

11

品質を担保する仕組み

工程ごとのGATE判定

各工程の終わりに合格条件を設け、満たさない限り次に進みません。判定結果は記録として残し、報告書資料編に添付します。

手計算によるダブルチェック

クリティカル部位は、解析結果とは独立に手計算を行い、両者の一致を確認します。差異がある場合は原因を特定してから次へ進みます。

チェックリストの標準化

40項目の確認事項と25件の不具合事例を社内標準として整備し、担当者が替わっても同じ品質が出る体制にしています。

解析の限界を、先にお伝えします

動的解析は万能ではありません。せん断ひずみが全応力解析の適用範囲を超える場合、Vsの実測値がない場合、面外方向の有効幅が図面から確定できない場合など、結果の信頼度が下がる条件は事前にご報告し、追加調査の要否を含めてご相談します。前提が曖昧なまま出した数値は、照査書として使えないためです。

CONTACT

まずは、図面と既往資料を拝見するところから。

対象施設・断面数・既往診断の有無をお知らせいただければ、概算の工程と費用感を3営業日以内にご回答します。「この施設は動的解析まで必要か」「静的照査で足りるか」といった手前の段階のご相談も歓迎します。設計会社様・建設コンサルタント様からの再委託、共同提案にも対応しております。

■ 本ページは技術内容の説明を目的とした資料です。掲載している図・数値・施設構成は、説明のために作成した仮想事例であり、実案件の施設名・所在地・発注者名・図面・実数値は含みません。

■ 実際の設計・照査においては、対象施設固有の条件(地質条件、水位条件、荷重組合せ、施設の重要度区分、適用する指針・基準の版)に基づく個別の検討と、技術者による確認が必要です。本ページの内容をもって、特定の施設の安全性を判断することはできません。

■ 掲載内容は、公開されている設計指針・技術基準類の考え方を、技術説明のために当社が再構成したものです。条項番号・頁の引用は行っておりません。適用にあたっては、必ず最新の原典をご確認ください。