照査値が 0.92 と出たとき、私たちはそれを「OK」と書きます。手順に沿って計算した結果であり、1.0 を下回っているのは事実です。けれども、その 0.92 は、どのくらい確かな 0.92 なのでしょうか。既往の解析例で照査値 0.92 となったボックスカルバートの中壁を題材に、入力を一つずつ動かして、照査値がどこまで動くのかを確かめました。
掲載内容について
構造物・地盤条件・入力地震動の選定は、技術説明のために設定した仮想事例(仮定値)であり、実案件の情報は含みません。数値は社内の地盤応答解析プログラム(1次元等価線形)と骨組解析プログラム(応答変位法)による試算結果です。照査の方法・許容値は、施設管理者の定める基準類に基づき個別に確認します。
題材:照査値 0.92 の中壁
対象は2連のボックスカルバート(内空 4.0 × 3.5 m × 2室、土被り 3.0 m)です。1次元の地盤応答解析(等価線形法)で求めた地盤の変位・周面せん断力・加速度を、応答変位法で骨組に作用させ、レベル2地震動(タイプⅡ)の3波の平均で照査しています。
基準ケースでは、すべての部材が 1.0 を下回り、最も大きいのは中壁の曲げ(M / My0 = 0.918)でした。M は常時と地震時の合計、My0 は鉄筋の初降伏に対応する曲げモーメント(522 kN·m/m)です。

| 項目 | 基準ケースの条件 |
|---|---|
| 地盤 | As1 砂質土 4 m(Vs 180 m/s)、Ac 粘性土 8 m(180 m/s)、As2 砂質土 8 m(280 m/s)、工学的基盤 Vs 400 m/s |
| 入力地震動 | 道路橋示方書のレベル2標準加速度波形(タイプⅡ、Ⅰ種地盤用)3波を工学的基盤に入力【要確認:適用基準による】 |
| 部材(中壁) | t = 0.50 m、D25@125(両面)、σck 24 N/mm²、SD345、かぶり(鉄筋中心)80 mm |
| 地盤ばね | 地盤反力係数の推定式(道路橋示方書の式を準用、動的変形係数は等価線形の収束剛性から)【要確認】 |
入力を一つずつ動かす
ほかの入力を基準値に固定したまま、一つの入力だけを現実的に起こりうる幅で動かしました。地盤の Vs は調査結果のばらつきとして ±10 %、かぶりは施工誤差として ±10 mm、地盤ばねは推定式の不確かさとして 0.5〜2 倍を想定しています。
| 入力 | 下側 | 上側 | 照査値の変動幅 |
|---|---|---|---|
| せん断波速度 Vs(全層一律) | −10 %:1.022 | +10 %:0.918 | 0.104 |
| 入力波(3波の個別値) | 最小:0.795 | 最大:0.984 | 0.189 |
| かぶり | +10 mm:0.946 | −10 mm:0.888 | 0.059 |
| 地盤ばね | ×0.5:0.939 | ×2:0.887 | 0.052 |
| コンクリート強度 σck | 21:0.910 | 27:0.925 | 0.015 |
| 上載荷重 | 0:0.918 | 20 kN/m²:0.918 | 0.000 |

変動が大きかったのは、入力地震動の波形の違い(0.795〜0.984)と地盤の Vs(−10 % で 1.022)でした。かぶりや地盤ばねの影響は ±0.03 程度、コンクリート強度は ±0.01 以下、上載荷重は中壁の曲げにはほとんど影響しませんでした。
σck を 27 に上げると照査値はわずかに大きくなりました(0.925)。降伏曲げモーメントは鉄筋でほぼ決まる一方、ヤング係数が上がって函体が硬くなり、地震時に受け持つ断面力が増えるためです。材料を良くすれば必ず照査値が下がる、とは限りません。
地盤の硬さは、単調には効かない
最も影響の大きかった Vs について、倍率を 0.80〜1.20 の範囲で細かく振りました(図-3)。照査値は Vs が小さいほど大きくなる、という単純な関係にはなっていません。Vs を 10 % 下げると 1.022 と 1.0 を超え、5 % 上げても 0.994 と基準より大きくなりました。基準ケースの 0.918 は、たまたま谷にあたっていたことになります。
Vs を変えると、地盤の変位の大きさ、地盤ばねの硬さ、地盤の固有周期と入力波の関係が同時に変わります。さらに応答変位法では「函体の上下面の相対変位が最大となる時刻」の地盤の状態を使うため、その時刻が別の山に移ると荷重の分布も入れ替わります。波ごとに見ると、T2-3 は倍率 1.00 で 0.795、1.05 で 1.078 と大きく変化しました。

| Vs 倍率 | 地盤相対変位 |Δu|(mm、3波平均) | 最大せん断ひずみ(%) | 照査値(T2-1 / T2-2 / T2-3) | 3波平均 |
|---|---|---|---|---|
| × 0.80 | 145.4 | 38.88 | 0.785 / 0.775 / 0.961 | 0.841 |
| × 0.85 | 139.3 | 39.11 | 0.897 / 0.805 / 0.986 | 0.896 |
| × 0.90 | 23.7 | 1.56 | 1.069 / 1.041 / 0.958 | 1.022 |
| × 0.95 | 18.4 | 1.70 | 1.018 / 1.013 / 0.913 | 0.981 |
| × 1.00 | 14.7 | 1.93 | 0.984 / 0.975 / 0.795 | 0.918 |
| × 1.05 | 14.9 | 2.10 | 0.979 / 0.927 / 1.078 | 0.994 |
| × 1.10 | 12.2 | 1.77 | 0.955 / 0.782 / 1.018 | 0.918 |
| × 1.15 | 10.8 | 0.74 | 0.891 / 0.823 / 0.937 | 0.884 |
| × 1.20 | 9.3 | 0.56 | 0.791 / 0.828 / 0.853 | 0.824 |
Vs を 0.80・0.85 倍にしたケースでは、粘性土層のせん断ひずみが 39〜39 % に達しました(基準ケースは 1.9 %)。等価線形法の適用範囲を大きく超えており、この2ケースの照査値は参考値です。地盤の破壊や液状化を含む検討は別途必要です【要確認】。
0.92 をどう読むか
今回試算した 45 通りの照査値(3波の個別値を含む)は 0.75〜1.08 に分布し、そのうち 8 通りが 1.0 以上でした。どれも、もっともらしい入力から出てきた値です。基準ケースの 0.92 は、その中の一つの点にすぎません。
照査値の小数第2位は、構造物の性質というより、入力の選び方の性質を表していることがある。
だからといって、照査値に意味がないわけではありません。基準類が定める手順は、こうしたばらつきをある程度見込んだうえで組み立てられています。問題は、0.92 を「8 % の余裕がある」と読んでしまうことです。今回の結果からは、余裕の大きさは地盤の Vs の想定に大きく左右される、と読むべきでした。
私たちが 1.0 に近い照査値を報告するときに心がけているのは、次の三つです。
- 最も効く入力(今回は地盤の Vs と入力波)を特定し、その幅で照査値がどう動くかを添える。
- 影響の大きい入力が、どの調査結果に基づくものか(ボーリングの本数、PS 検層の有無など)を明記する。
- 照査値の変動が判断を分ける場合は、追加の地盤調査や、補強・設計変更の要否を施設管理者と相談する。
照査値 1.0 の手前で考えるべきことは、「OK かどうか」より先に、「この数字は、何を動かすと変わるのか」だと考えています。
まとめ
照査値 0.92 の中壁について入力を一つずつ動かすと、照査値は 0.75〜1.08 の範囲に分布した。
影響が大きいのは入力波の違い(0.79〜0.98)と地盤の Vs(−10 % で 1.02)。かぶり・地盤ばね・コンクリート強度の影響は ±0.03 程度以下だった。
Vs と照査値の関係は単調ではなく、基準ケースが谷にあたることもある。応答変位法で用いる時刻が入れ替わることも一因。
1.0 に近い照査値は、支配的な入力とその根拠、変動幅を添えて報告することで、判断の材料になる。
本試算の適用範囲と限界
- 感度は一つずつ入力を動かす方法(他は基準値に固定)で求めており、複数の入力が同時に変わる場合の組合せは評価していません。
- 地盤は1次元等価線形解析、構造は線形骨組の応答変位法です。部材の非線形性・地盤との剥離は考慮していません。
- 照査値は M / My0(常時+地震時、タイプⅡ 3波平均)で示しています。適用する照査方法・限界値は基準類により異なります【要確認】。
- 入力の変動幅(Vs ±10 % など)は説明のための仮定であり、実際の調査精度は個別に確認が必要です。
ご注意
- 本ページの数値は仮想事例に対する試算結果であり、他の構造物にそのまま適用することはできません。
- 解析結果は、技術者による検証と照査を経て設計に用いることを前提としています。
- 本文中の考察は、試算結果から読み取れる範囲での見解です。
照査値の「確からしさ」まで含めてご報告します
感度解析による支配要因の特定、追加調査の要否の整理、補強案との比較まで対応します。資料の電子授受とWeb打合せにより全国対応しています。