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TECHNICAL NOTE

せん断波速度のばらつきが地盤応答に与える影響

地盤解析

地盤のせん断波速度 Vs は、PS検層がない場合は N 値からの推定式で設定することが多く、推定値には相当のばらつきがあります。応答変位法では地盤の相対変位がそのまま構造物への荷重になるため、Vs の設定誤差が断面力にどの程度効いてくるかを知っておくことは重要です。本稿では、仮想の3層地盤で Vs を一律に 0.8〜1.2 倍、また粘性土層だけを ±20 % 変えた等価線形解析を行い、地表加速度・地中の相対変位・卓越周期への影響を比較しました。

掲載内容について

本ページの地盤条件・動的変形特性・入力地震動の選定は、技術説明のために設定した仮想事例(仮定値)であり、実案件の情報は含みません。数値は社内の地盤応答解析プログラム(等価線形法)による試算結果です。

Vs の倍率
0.8〜1.2
解析ケース
7 × 6波
初期の卓越周期
0.48〜0.30 s
相対変位(T1-1)
0.65〜1.70 cm
収束しない波
2 / 42
01

検討条件

基本の地盤 As1 砂質土 4 m(Vs = 170 m/s)/Ac 粘性土 8 m(160 m/s)/As2 砂質土 10 m(260 m/s)/工学的基盤 Vs = 400 m/s(等価線形法の収束剛性の記事と同じ)
変化させたもの 表層 3 層の Vs(= 初期せん断剛性 G0 = ρVs²)。動的変形特性(HDモデル)・単位体積重量・基盤は共通
ケース 全層一律 ×0.8/×0.9/×1.0/×1.1/×1.2、粘性土層 Ac のみ ×0.8/×1.2
計算条件 分割厚 0.5 m、α = 0.65、収束判定 1 %・最大 40 回
入力地震動 道路橋示方書 レベル2 標準加速度波形(Ⅰ種地盤用)タイプⅠ・Ⅱ 各3波(2E 入力)【要確認】
評価する相対変位 深さ 3〜8 m 間(土被り 3 m・高さ 5 m 程度の函体を想定)の最大相対変位
ケース 4ΣH/Vs 初期の卓越周期 収束後の周期(タイプⅠ平均) 収束後の周期(タイプⅡ平均)
全層×0.8 0.560 s 0.481 s 1.050 s 1.283 s
全層×0.9 0.498 s 0.423 s 0.876 s 1.064 s
基本 0.448 s 0.375 s 0.755 s 0.924 s
全層×1.1 0.407 s 0.335 s 0.617 s 0.811 s
全層×1.2 0.373 s 0.301 s 0.506 s 0.671 s

検算:4ΣH/Vs は Vs に反比例する(0.448 ÷ 0.8 = 0.560 s、÷ 1.2 = 0.373 s で表の値と一致)。初期の卓越周期は弾性基盤の伝達関数のピークで、基盤とのインピーダンス比も変わるため厳密には反比例しない。

02

Vs を一律に変えた場合

全層一律の倍率に対する地表最大加速度、深さ 3〜8 m 間の最大相対変位、収束後の卓越周期を各波について示します(図-1)。

Vs の倍率と地表加速度・相対変位・卓越周期
図-1 Vs の倍率と応答(○:40 回の繰返しで収束しなかったケース)
ケース 相対変位 T1-1 相対変位 タイプⅠ平均 相対変位 タイプⅡ平均 地表加速度 タイプⅠ平均 地表加速度 タイプⅡ平均
全層×0.8 1.70 cm 2.04 cm* 3.59 cm* 564 gal* 745 gal*
全層×0.9 1.55 cm 2.63 cm 4.56 cm 769 gal 974 gal
基本 1.33 cm 1.80 cm 3.47 cm 811 gal 1068 gal
全層×1.1 0.97 cm 1.30 cm 2.00 cm 822 gal 1011 gal
全層×1.2 0.65 cm 0.94 cm 1.54 cm 807 gal 1069 gal

* 全層×0.8 では T1-2・T2-1 が 40 回の繰返しで収束しなかったため、収束した 2 波の平均を示す(収束しなかった波の最大ひずみ:T1-2 5.1 %、T2-1 25.2 %)。

POINT

Vs を 1.2 倍にすると深さ 3〜8 m 間の相対変位はタイプⅠ平均で 1.80 → 0.94 cm(52 %)、タイプⅡ平均で 3.47 → 1.54 cm(44 %)と、Vs の変化率(20 %)を大きく上回って減少しました。剛性が上がると同じ入力でもひずみが小さくなり、剛性低下も小さくなるという非線形の効果が重なるためです。逆に Vs を下げる側では、ひずみの増大 → 剛性低下 → さらにひずみ増大 という連鎖が起き、×0.8 では2波が収束しませんでした。地表加速度は Vs の増減に対して単調ではなく、変位とは傾向が異なります。

03

深さ方向の分布と応答スペクトル

T1-1 と T2-3 について、最大相対変位と最大せん断ひずみの深さ分布を比較しました(図-2、網掛けは函体を想定した深さ 3〜8 m)。

Vs の倍率ごとの最大相対変位と最大せん断ひずみの深さ分布
図-2 最大相対変位・最大せん断ひずみの深さ分布(左2図:T1-1、右2図:T2-3)

地表の加速度応答スペクトル(減衰 5 %、各タイプ3波平均)を図-3 に示します。タイプⅠでは Vs が小さいほどピーク周期が長周期側へ移り(×1.2 の 0.57 s → ×0.8 の 0.78 s)、タイプⅡではピーク周期はほぼ 0.66〜0.70 s で変わらず、Vs が小さいほどピーク値が低下しました(×1.2 の 3,629 gal → ×0.8 の 2,582 gal)。

Vs の倍率ごとの地表の加速度応答スペクトル
図-3 地表の加速度応答スペクトル(h = 5 %、左:タイプⅠ、右:タイプⅡ、各3波平均)
ケース タイプⅠ平均 ピーク周期 ピーク Sa タイプⅡ平均 ピーク周期 ピーク Sa
全層×0.8 0.78 s 1,938 gal 0.70 s 2,582 gal
全層×0.9 0.63 s 2,310 gal 0.70 s 2,776 gal
基本 0.63 s 2,569 gal 0.70 s 3,276 gal
全層×1.1 0.57 s 2,712 gal 0.70 s 3,592 gal
全層×1.2 0.57 s 2,561 gal 0.66 s 3,629 gal

全層×0.8 のスペクトル平均には収束しなかった波を含む。

04

どの層の Vs が効くか

同じ ±20 % でも、どの層の Vs が違うかで影響は異なります。粘性土層 Ac(GL−4〜12 m、函体を想定した区間の大部分を含む)だけを変えたケースと、全層一律に変えたケースを比較しました(図-4)。

全層一律と粘性土層のみの Vs 変化の比較
図-4 全層一律と粘性土層のみの比較(左:相対変位、右:地表加速度)
ケース 相対変位 タイプⅠ平均 相対変位 タイプⅡ平均 地表加速度 タイプⅠ平均 地表加速度 タイプⅡ平均
全層×0.8 2.04 cm* 3.59 cm* 564 gal* 745 gal*
Acのみ×0.8 3.26 cm 4.90 cm 717 gal 844 gal
基本 1.80 cm 3.47 cm 811 gal 1068 gal
Acのみ×1.2 0.91 cm 1.24 cm 757 gal 888 gal
全層×1.2 0.94 cm 1.54 cm 807 gal 1069 gal
POINT

粘性土層だけを 1.2 倍にしたケースの相対変位(タイプⅠ 0.91 cm、タイプⅡ 1.24 cm)は、全層を 1.2 倍にしたケース(0.94/1.54 cm)と同程度でした。函体が位置する層の Vs が相対変位をほぼ支配しているといえます。0.8 倍側では粘性土層のみでもタイプⅡ平均 4.90 cm と基本の 1.4 倍になりました。地盤調査の計画では、構造物の位置する層の Vs を重点的に把握することが有効です。

05

まとめ

01

Vs を ±20 % 変えると、函体位置の相対変位は T1-1 で 0.65〜1.70 cm(基本 1.33 cm)、1.2 倍でタイプⅠ平均 52 %・タイプⅡ平均 44 % となり、Vs の変化率を大きく上回って変化した。

02

Vs を下げる側では非線形の連鎖でひずみが急増し、全層×0.8 では 42 波中 2 波が 40 回の繰返しで収束しなかった。

03

地表加速度は Vs に対して単調でなく、変位とは傾向が異なる。応答変位法には変位の感度を見る必要がある。

04

函体が位置する粘性土層の Vs だけを変えても、全層を変えた場合と同程度の影響があった。

本試算の適用範囲と限界

  • Vs は層ごとに一律に増減させており、深さ方向の不均質・空間的なばらつきは考慮していません。
  • 動的変形特性(HDモデル)は全ケース共通の仮定値です。実際には Vs と G/G0–γ 曲線のばらつきが同時に生じます。
  • 収束しなかったケースは等価線形法の適用が難しい条件で、非線形の時刻歴解析による確認が必要です【要確認】。

ご注意

  • 本ページの数値は仮想事例に対する試算結果であり、他の地盤・構造物にそのまま適用することはできません。
  • 解析結果は、技術者による検証と照査を経て設計に用いることを前提としています。
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