浄水場・配水池・調整池などの水槽構造物では、地震時に水の慣性作用による動水圧が壁体に作用します。本ページでは、水道施設耐震工法指針・解説 1997年版に示される考え方をもとに、自由水面の有無、側壁・中壁への作用、取水塔・管路・水面動揺の扱いを整理します。
設計上の基本:水に接する構造物の耐震設計では、地震時動水圧を考慮します。地震時動水圧は、構造物の加速度に比例して作用する慣性力的な作用と、自由水面の動揺(スロッシング)に伴う作用に分けて考えます。一般的な耐震照査では、主として慣性力的な動水圧を設計荷重として扱い、水面動揺は必要に応じて別途検討します。
1. 地震時動水圧とは
地震時動水圧とは、地震時に水が構造物の加速度に対して慣性的に作用することにより、水槽壁・隔壁・取水塔・管路異形部などに生じる水圧です。静水圧が水深に応じて常時作用する荷重であるのに対し、動水圧は地震時の水平動または上下動に伴って発生する地震時荷重として扱います。
特に、浄水場・配水池・沈殿池・ろ過池などの池状構造物では、地震時の水の慣性作用が壁体・隔壁・底版に与える影響を無視できない場合があります。そのため、構造物の耐震照査では、静水圧、自重、土圧、地震時慣性力などとあわせて、動水圧を荷重条件として整理します。
2. 動水圧を考えるときの基本分類
地震時動水圧を考える際には、まず「自由水面があるかどうか」および「水の圧縮性を無視できるかどうか」を確認します。一般的な水槽・配水池・取水塔などでは、水の圧縮性の影響は無視できる場合が多いとされます。一方、送・配水管路では、閉塞部・曲がり部・T字部・片落部などにおいて、水の圧縮性や管体の弾性が影響するため、別の扱いが必要になります。
自由水面がある場合には、水の慣性作用による動水圧に加えて、水面が揺動するスロッシングの影響も発生します。通常の壁体断面照査では、作用の大きい慣性力的な動水圧を主たる設計荷重として採用し、水面動揺については、越流・屋根への衝撃・余裕高の確認などが必要な場合に別途検討します。
3. 矩形水槽で用いる代表的な考え方
3.1 自由水面を有する矩形水槽
自由水面を有する矩形水槽では、水面を z = 0 とし、下向きに z を取ります。この場合の動水圧は、水面付近で小さく、底版付近で大きくなる分布として扱います。指針では、ウエスタガードの動水圧式に、幅 B と水深 H の比による補正係数 β を掛けた形で整理されています。
B/H が小さい水槽では β が小さくなり、B/H が大きくなるにつれて β は 1.0 に近づきます。
3.2 自由水面のない矩形水槽
自由水面のない矩形水槽では、深さ方向および奥行き方向ともに一様分布とみなし、壁体単位面積当たりの動水圧として整理します。内部水の一部を構造物に付加される質量(仮想質量)として扱う考え方に対応します。
中間壁がある場合には、左右または前後の水域からそれぞれ動水圧を受けるため、両側条件が同じであれば 2p として整理できます。
3.3 中壁・隔壁に作用する動水圧
中壁・隔壁は外壁と異なり、左右または前後の水域から同時に動水圧を受ける場合があります。片側の動水圧を p(z) とすれば、中壁の合計作用は 2p(z) として整理できます。ただし、実施設計では、左右の水位差、片側空水、片側満水、幅の相違、隔壁の配置、加速度方向、荷重組合せを確認する必要があります。
4. 取水塔・円形水槽・管路での扱い
4.1 取水塔・円形水槽
取水塔や円形水槽では、円周方向および深さ方向の分布を考慮します。指針では、ベッセル関数を用いた分布式が示されています。矩形断面の取水塔の場合には、円形断面で用いる断面積を矩形断面積に置き換えて扱う考え方が示されています。
4.2 ダム・大型水域
ダムのように上流側に大きな水域を有する構造物では、ウエスタガード型の動水圧分布や、上流面の傾斜を考慮した式が用いられます。一般に、上流面が傾斜している場合の動水圧は鉛直面の場合より小さくなる傾向があります。
4.3 送・配水管路
送・配水管路の直線部では地震時動水圧は生じにくいとされます。閉塞部、曲がり部、T字部、片落部などの異形部では圧力変動が発生するため、別途評価が必要です。ポンプ加圧送水管路では、地震時停電に伴うポンプ停止により水撃圧が発生する場合があります。
5. 水面動揺・スロッシングの扱い
自由水面を有する水槽では、地震時に水面の自由振動(スロッシング)が発生する場合があります。指針では、Housner 理論に基づく応答スペクトル法、n 波共振法、ポテンシャル理論に基づく応答スペクトル法などが示されています。適切な入力地震波を用いる場合には、動的応答解析により求めてもよいとされています。
通常の壁体断面照査では慣性力的な動水圧を主たる荷重として整理し、水面動揺については施設の形状・水深・余裕高・屋根の有無・設備配置・要求性能に応じて別途確認するのが実務上の整理になります。
6. 実務での使い分け
| 対象 | 主な考え方 | 使用場面 |
|---|---|---|
| 自由水面あり矩形水槽 | ウエスタガード式 × β 補正 | 配水池・浄水場池状構造物の壁体照査 |
| 自由水面なし矩形水槽 | 一様分布・仮想質量的取扱い | 密閉水槽、満水閉鎖状態の検討 |
| 中壁・隔壁 | 左右水域からの作用を合算 | 複数池構造、隔壁、導流壁の照査 |
| 取水塔・円形水槽 | 円周方向・深さ方向分布 | 塔状構造物、円形構造物 |
| 送・配水管路 | 圧縮性・管体弾性を考慮 | 閉塞部、曲がり部、T字部、片落部 |
| 水面動揺 | スロッシング検討 | 越流、屋根衝撃、余裕高確認 |
7. β の値(自由水面ありのみ)
表にない B/H は直線補間します。
| B / H | β |
|---|---|
| 0.5 | 0.397 |
| 1.0 | 0.670 |
| 1.5 | 0.835 |
| 2.0 | 0.921 |
| 3.0 | 0.983 |
| 4.0 | 0.996 |
| ∞ | 1.000 |
水槽幅 B、水深 H、水平震度 Kh、水の単位体積重量 γ0 を与えれば、自由水面あり・自由水面なしの矩形水槽について、側壁および中壁に作用する動水圧を試算できます。中壁については左右同一条件として、片側の動水圧 p(z) に対し合計作用を 2p(z) として整理します。
実施設計では、設計水位、片側空水条件、荷重組合せ、部材照査条件、L1・L2地震時照査方針、解析モデルとの整合を確認してください。
出典:公益社団法人 日本水道協会「水道施設耐震工法指針・解説 1997年版」1.6 地震時動水圧と水面動揺、式(1.6.8)、式(1.6.9)、表-1.6.1 βの値をもとに作成。
※ 本ページの説明・図および試算は技術説明用に再構成したものです。