浄水場の送水ポンプ場を想定し、地下ピット(RC箱形)と地上2層のRCラーメン上屋を一体の3次元モデルで解析しました。まず静的弾性解析で、地震力が上屋の柱からピットを経て地盤へ伝わる全体の流れと層間変形を確認し、次に上屋を対象とした増分解析(塑性ヒンジ法)で崩壊機構が形成されるまでの耐力=保有水平耐力を求め、必要保有水平耐力と比較しました。
掲載事例について
本ページの施設構成・寸法・配筋・荷重は、技術説明のために設定した仮想事例(仮定値)であり、実案件の情報は含みません。数値は社内の3次元骨組・平板解析プログラム(静的弾性解析・プッシュオーバー解析)による試算結果と、その出力に基づく断面耐力の計算です。実設計では、適用基準・地盤調査結果・設備荷重に基づき条件を個別に設定します。
検討対象と解析の目的
| 構造形式 | 地下1層 RC箱形ピット+地上2層 RCラーメン上屋 |
| 平面(柱心) | 18.0 m × 12.0 m(X:6.0 m×3 スパン、Y:6.0 m×2 スパン) |
| 階高 | 1層 7.0 m(ポンプ室)/2層 4.5 m(電気室) |
| 地下ピット | 深さ 6.0 m、外壁 0.6 m、中壁 0.5 m(Y=6 m)、底版 0.8 m、1F床 0.4 m |
| 柱・大梁 | 1F柱 700×700/2F柱 600×600/2F大梁 400×900/R大梁 400×800 |
| 解析手法 | 3次元FEM 静的弾性解析(L1)+ プッシュオーバー解析(保有水平耐力) |
この解析で確認したこと
- L1地震時の層間変形角と、柱・地盤ばねへの水平力の流れ
- ピットを上屋の固定端とみなしてよいか(ピットの水平変位の大きさ)
- 上屋の崩壊機構と保有水平耐力 Qu、必要保有水平耐力 Qun との比
- 機構形成時にせん断破壊が先行しないこと(保証設計)と部材種別の確認

解析条件(仮定値)
材料・断面・配筋(仮定)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| コンクリート | Fc = 24 N/mm²、E = 2.47×104 N/mm²、単位体積重量 24 kN/m³ |
| 鉄筋 | 主筋 SD345(保有耐力の算定では材料強度 1.1×345 = 379.5 N/mm²)、帯筋・あばら筋 SD295 |
| 1F柱 700×700 | 主筋 16-D25(1面 5本)、帯筋 2-D13@100 |
| 2F柱 600×600 | 主筋 12-D22(1面 4本)、帯筋 2-D13@100 |
| 2F大梁 400×900 | 上端 5-D25/下端 4-D25、あばら筋 2-D13@200 |
| R大梁 400×800 | 上端 4-D22/下端 3-D22、あばら筋 2-D13@200 |
荷重と地震用重量
| 2F床 付加荷重 | 4.0 kN/m²(仕上げ+機器・積載) |
| R階 付加荷重 | 2.1 kN/m²(防水・仕上げ+積載) |
| 外周はり 外壁等 | 2F 5.75 kN/m/R 3.75 kN/m |
| 1F床(ピット頂版) | 10.0 kN/m²(ポンプ・配管等) |
| 静止土圧 | K0 = 0.5、γt = 18 kN/m³、上載 10 kN/m² |
| 地盤ばね | 底版 kv = 30,000 kN/m³、外壁 kh = 15,000 kN/m³(せん断方向は 1/3) |
| R階 WR | 2,452 kN |
| 2階 W2 | 3,658 kN |
| 上屋 ΣW | 6,111 kN |
| 地下部(ピット+1F床荷重) | 14,861 kN |
| 一次固有周期 T = 0.03h | 0.345 s |
地震力(X方向、Z = 1.0、Rt = 1.0)
| 層 | αi | Ai | L1 層せん断力 Qi(C0=0.2)(kN) | Qud(C0=1.0)(kN) |
|---|---|---|---|---|
| 2層(R階) | 0.401 | 1.399 | 686 | 3,431 |
| 1層(2階) | 1.000 | 1.000 | 1,222 | 6,111 |
地下部には水平震度 k = 0.1 を一律に与えました。L1 の層せん断力はスラブ節点に等分配し、ピットの慣性力は各要素の重量に比例して節点に配分しています。
STEP 1 3次元FEMによる静的弾性解析(L1地震時)
L1地震時の層間変形角は、1層 1/724、2層 1/1,641 でした(スラブ中央節点の水平変位から算出)。ピット頂版(1F床)の水平変位は 0.62 mm、2F床は 10.3 mm で、ピットの水平変位は2F床の約 1/17 にとどまります。
| 層 | 階高 (m) | 層間変位 (mm) | 層間変形角 |
|---|---|---|---|
| 1層(1F〜2F) | 7.0 | 9.67 | 1/724 |
| 2層(2F〜RF) | 4.5 | 2.74 | 1/1,641 |

水平力の流れ
| 1F柱の位置 | せん断力 (kN/本) |
|---|---|
| 外周(Y=0, 12)・端部 | 97.9 |
| 外周(Y=0, 12)・中間 | 92.5 |
| 中央(Y=6)・端部 | 117.6 |
| 中央(Y=6)・中間 | 112.8 |
| 1F柱 12本の合計 | 1,222.1 |
| 地盤ばね反力(X方向) | 反力 (kN) | 割合 |
|---|---|---|
| 底版(せん断ばね) | 853 | 31.5 % |
| 加力直交の外壁 X=0, 18 m(法線ばね) | 1,230 | 45.4 % |
| 加力平行の外壁 Y=0, 12 m(せん断ばね) | 625 | 23.1 % |
| 合計 | 2,708 | 100 % |
地盤ばね反力の合計 2,708 kN は、上屋の層せん断力 1,222 kN と地下部の慣性力 1,486 kN(= 0.1 × 14,861 kN)の和に一致します(つり合いの確認)。
上屋の地震力は柱を通じてピット頂版に伝わり、ピットの外壁・底版を介して地盤へ流れます。加力直交の外壁(土圧抵抗)が約半分を受け持ち、底版の摩擦(せん断ばね)が約3割です。ピットの水平変位は上屋に比べて十分小さく、次の保有水平耐力の検討では上屋をピット頂版位置で支持された架構として扱える目安になります(本解析では同じ3次元モデルのまま増分解析を行っています)。
STEP 2 保有水平耐力(プッシュオーバー解析)
上屋のはり・柱の材端に全塑性モーメント Mp を設定し、Ai 分布の水平荷重(C0 = 1.0 の Qud 分布)を漸増させて、材端モーメントが Mp に達するごとに塑性ヒンジを追加する増分解析(イベント・トゥ・イベント法)を行いました。機構が形成されて剛性行列が特異になった時点の荷重を保有水平耐力 Qu としています。

保有水平耐力の比較
| 層 | Qu (kN) | Qud (kN) | Ds | Fes | Qun = Ds·Fes·Qud (kN) | Qu/Qun |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1層 | 2,474 | 6,111 | 0.30 | 1.00 | 1,833 | 1.35 |
| 2層 | 1,389 以上 | 3,431 | 0.30 | 1.00 | 1,029 | 1.35 以上 |
機構形成時の層間変形角:1層 1/230、2層 1/809。2層は機構に至っていないため、Qu は1層の機構形成時の値を下限として示しています。Ds = 0.30 は部材種別 FA(次節で確認)のラーメン架構として設定した値です。
1層は階高が 7.0 m と高く、2F大梁の曲げ耐力が柱に比べて相対的に大きい(中柱の2F位置では はり2本の Mu 合計 1,293 kN·m に対し、上下の柱の Mu 合計は 1,159 kN·m)ため、1層の柱頭・柱脚に塑性ヒンジが集中する1層の層崩壊型の機構となりました。必要保有水平耐力に対しては 1.35 倍の余裕がありますが、変形が1層に集中する機構であるため、実設計では柱の曲げ耐力を上げる・はりを先に降伏させる配筋とするなど、全体崩壊形へ誘導する検討が考えられます。
せん断の保証設計と部材種別
機構形成時にせん断破壊が先行しないことを、曲げ降伏時のせん断力 Qmu と せん断終局強度 Qsu(荒川 min 式)の比較で確認しました。
| 部材 | Qmu (kN) | Qsu (kN) | Qsu/Qmu |
|---|---|---|---|
| 1F柱 700×700 | 212〜248 | 613〜641 | 2.59〜2.89 |
| 2F柱 600×600 | 181〜203 | 445〜456 | 2.24〜2.46 |
| 2F大梁 400×900 | 330 | 424 | 1.28 |
| R大梁 400×800 | 193 | 357 | 1.85 |
部材種別と剛性率
| 柱 FA の条件 | 本試算 | 判定 |
|---|---|---|
| h0/D ≥ 2.5 | 6.1〜9.1 | 適合 |
| σ0/Fc ≤ 0.35 | 0.019〜0.065 | 適合 |
| pt ≤ 0.8 % | 0.49〜0.57 | 適合 |
| τu/Fc ≤ 0.1 | 0.023〜0.030 | 適合 |
| 層 | rs = h/δ(L1) | 剛性率 Rs | Fs |
|---|---|---|---|
| 1層 | 724 | 0.61 | 1.0 |
| 2層 | 1,641 | 1.39 | 1.0 |
はりの τu/Fc は 2F 0.047、R階 0.031。平面・配置が対称なため偏心率は 0(Fe = 1.0)とし、Fes = Fe·Fs = 1.0 としました。1層の剛性率は 0.61 と下限 0.6 に近く、階高や柱断面を変える場合は Fs の再確認が必要です。
全ての柱・はりで Qsu/Qmu が 1 を上回り(最小:はり 1.28、柱 2.24)、曲げ降伏が先行します。柱は部材種別 FA の条件を満たしており、Ds = 0.30 の設定と整合します。
まとめ
L1地震時の層間変形角は 1層 1/724、2層 1/1,641。ピット頂版の水平変位は2F床の約 1/17 で、ピット頂版は上屋の支持として十分に硬い。
地震力の地盤への伝達は、加力直交の外壁が約 45 %、底版が約 31 %、平行な外壁が約 23 %。
保有水平耐力は 1層 Qu = 2,474 kN で、必要保有水平耐力 Qun = 1,833 kN の 1.35 倍。
崩壊機構は1層の層崩壊型。せん断破壊は先行しないが、全体崩壊形へ誘導する配筋・断面の検討余地がある。
本試算の適用範囲と限界
- 塑性ヒンジは弾完全塑性で、Mp は常時軸力に対する値で一定としています(地震時の変動軸力、2軸曲げの相互作用は考慮していません)。
- はりの Mp は上端引張・下端引張の平均値を用いています。スラブの協力幅による耐力・剛性の増加は考慮していません。
- 荷重増分は水平荷重のみで、常時荷重による部材端モーメントはヒンジの発生順序に反映していません(崩壊機構時の耐力への影響は小さいと考えられますが、実設計では常時荷重を先行載荷して評価します)。
- X方向のみの検討です。Y方向、地下部の地震時土圧・応答変位、ピットの部材照査は対象外です。
- 地盤ばねは線形・引張抵抗ありとしています。
ご注意
- 本ページの数値は仮想事例に対する試算結果であり、他の施設にそのまま適用することはできません。
- Ds・Fes・材料強度・荷重は、適用基準と施設ごとの条件に基づき個別に設定・確認する必要があります。
- 解析結果は、技術者による検証と照査を経て設計に用いることを前提としています。
ポンプ場・上屋付き施設の耐震解析のご相談
図面・配筋図・既往の計算書をお送りいただければ、検討範囲(弾性解析・保有水平耐力・補強検討)と進め方をご提案します。資料の電子授受とWeb打合せにより全国対応しています。
この事例で使った解析方法の資料
手法の考え方・照査の流れは技術資料にまとめています。